ライターがインタビューで準備をするのは、「想定外」という化学反応を楽しむため
- 中島洋一(株式会社ビートアンドライト代表)

- 4 日前
- 読了時間: 4分

「インタビューを成功させる秘訣は何でしょうか?」と聞かれたとき、私はいつも迷わず「事前準備です」とお答えしています。
当社の「インタビュー講座」でも繰り返し強調しているのですが、プロのインタビュアーは、音楽アーティストがライブの前にリハーサルをするように、また鮨職人が早朝から仕込みをするように、本番前に周到に準備を重ねます。
インタビュアーにとっての準備とは、具体的には「質問票(質問リスト)をつくること」と「相手やテーマに関する事前調査を行うこと」の2つ。これらを愚直に行うだけで、インタビュー本番の成功率は格段に上がります。
……と、ここまで書くと、「なーんだ、結局は用意周到に、マニュアル通りに本番をこなすのがプロのやり方なのか」と思われてしまうかもしれません。
でも、実はここからが、インタビューという仕事の本当にエモいところなんです。
プロがなぜそこまで執念深く、時には何時間もかけて準備をするのか。 それは本番でマニュアルをなぞるためではありません。 むしろ、現場で起きる「想定外の脱線」を、心から楽しむためなのです。
ライターがインタビューで「遭難」しないための準備
インタビュー本番は、生身の人間と人間が向き合う「ライブ」です。 どんなに入念に準備をしていても、会話は必ずしも筋書き通りには進みません。
「あ、その話、めちゃくちゃ面白いな」 「事前リサーチでは出てこなかったけれど、このエピソードこそが本質かもしれない」
そんな場面が、現場では日常茶飯事のように起こります。
もし、あなたが一切の準備をせずに現場に臨んでいたとしたらどうでしょう。 相手の話が脱線したとき、それが「ただの雑談」なのか、それとも「記事の核になる宝物」なのか、判断がつきません。会話が進むうちにどこへ向かっているのか分からなくなり、ただ言葉の波に溺れてしまうだけです。
しかし、手元に「これを聞き出す」という明確なゴール(4つのポイント:誰に、何を、どのように、誰が)と、綿密に組まれた質問票という「羅針盤」があれば、話がどれだけ脱線しても焦ることはありません。
「この脱線は面白いから、もっと掘り下げてみよう。その代わり、後半のあの質問は削っても大丈夫だ」
そんな風に、ライブハウスで演奏中に即興でアレンジを加えるような、大人の余裕が生まれるのです。
マイルス・デイビスになろう!
ジャズの帝王マイルス・デイビスが、かつてセッション中にピアニストのハービー・ハンコックが「間違った」コードを弾いたとき、それをミスとして否定せず、続く音を何事もなかったかのように鳴らして新しい音楽に昇華させた――という有名なエピソードがあります。
インタビューの現場もまったく同じです。 用意した質問票からズレた答えが返ってきたとき、それを「ミス」や「失敗」にするか、あるいは「新しい響き(化学反応)」にするかは、すべて聞き手であるあなたの姿勢にかかっています。
「あれ、質問票の順番と違うな……」と焦って、相手の言葉を遮って次の質問へ進んでしまうのは、本当にもったいない。 相手が何かを語り、ふと黙り込んだなら、その「沈黙」をもじっと待つ。 スティーブ・ジョブズのように、真剣に言葉を探して沈黙しているのなら、その静寂に耐え、じっと相手の言葉が紡がれるのを待つ。
そんな「待つべき沈黙」を見極められるのも、事前の準備によって、自分の中に「余白」と「心の余裕」が生まれているからなのです。
「私はスポンジ」と唱えてライブに挑む
インタビュー本番の日は、26年間この仕事を続けている私であっても、いまだに緊張します。 そんなとき、私はいつも心の中でヘンテコな呪文を唱えます。
「俺はスポンジだ。俺はスポンジだ……」
自分という自我を一度からっぽにして、ただひたすら相手の言葉、その場の空気、相手の表情を吸い込む。 目の前の人の人生や、仕事の裏にあるドラマ(一次情報)を、リスペクトを持って受け取る。これほど贅沢でエモい仕事はないのではないか! と感じます。
徹底的に準備を仕込み、現場に入ったら、あとは頭を柔らかくしてそのライブ(即興演奏)を楽しむ。 想定内の予定調和な記事よりも、現場の熱い化学反応から生まれた記事の方が、読者の心を震わせるに決まっています。
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