プロインタビュアーは死者の言葉も紡ぐ
- 中島洋一(株式会社ビートアンドライト代表)

- 2月7日
- 読了時間: 4分
更新日:2月12日

★★★「インタビュー講座」2026年2月14日までモニター価格1万1000円で受付中★★★
「図書館は、死者らで満ちあふれた魔の巣窟である」と、アメリカの思想家エマソンの言葉を引用して教えてくれたのは、ラテンアメリカ文学ブームの口火を切った作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスでした。
プロインタビュアーによって綴られた本・テキストも、少し先の未来において、死者の言葉の記録になることでしょう。そこに、ひとまとめに編纂された人間の思想なり、人間の取り組みの記録なり、価値あるものがまとまっているとしたら、きっと後世の人々の役に立つだろうと私は信じています。
「今綴っている記録」がやがて「死者たちの記録」になるという話ですが。一方でプロインタビュアーは、すでに亡くなった人の声を、文字に起こすこともできるんです。平たくいうと、「もう亡くなったけれど、あの人はこう言っていた」という話を、生きている人から聞いて記録するわけですね。
これに関連して、インタビューの力・効果の話を二つお話したいと思います。以前、明治初期から続くとある親族会社の歴史をまとめるために、関係者にインタビューした時の話です。何人かにインタビューしたのですが、その中のお一人――。
90歳近い女性――仮にH子さんとします――は親族会社の取締役ですが、お子さまがおらず、旦那さま(本家の人)も15年ほど前に亡くなったということで、端的に言うと、自分は取締役であるにもかかわらず「蚊帳の外にいる」。そんなかたちになってしまいました。ご親族同士の仲は本当に表裏なく、とても良好なのですが……。客観的にそう見えてしまう。もちろんご本人は、そのようなことは思っていらっしゃらなかったかもしれないし、少なくともそんなことは一切、言いませんでしたが。
そのH子さんは旦那さまを亡くして以来、ずっと元気がなく塞ぎこんでいたそうです。外出することもほとんどなく、広くて立派なお屋敷の、旦那さまの部屋は手付かずのまま。お住まいは地方なのですが、旦那さまが仕事用に買った東京の区分マンションも約15年間、片付けも始末もせず。使っていないのに固定資産税だけ支払っている状況でした。
プロインタビュアーはときにシャーマンになる
H子さんは言います。「あのひとが死んだなんて、今でも信じられない」。自分も母親が亡くなった時、しばらくそんな気持ちだったので分かる気がします。
いよいよ親族会社の歴史をまとめるインタビューのためH子さんのお宅を訪れた日――。その時は“亡くなった旦那さまが、いかに親族会社に貢献したか”という話をしっかり伺いました。そしてH子さんと旦那さまの二人の思い出――初めて二人が出会った瞬間、名門ゴルフ場での意外な接点、結婚後よく訪れたアメリカ旅行、親族のルーツを探す旅での珍道中――も。
普段は家にこもりっきりのH子さんが、8時間もぶっ続けで話をしてくれました。しかも話の途中で、おいしい八女茶を淹れてくださり、おいしい羊羹まで切って出してくださった。鮮やかな朱塗りの小皿、私の日常生活ではまず見ることのない黒文字の楊枝――。
H子さんは実に生き生きと、亡くなった旦那さまとの思い出を話してくださいました。旦那さまは実に社交的で、しかも親族の会社(会社は複数あった)の歴史の記録を、後世に残すことに意欲を持ちながら、それを果たせず亡くなったということでした。
インタビューの最後、H子さんは次のように言ってくださいました。「うちの会社の歴史を聞いてくださったこと、夫の話を聞いてくださったこと、それを書いて残していただくことを、主人は感謝していると思います」
自分はその瞬間、涙があふれそうになりました。いや、正直、涙が流れました。
豪邸のリビングの空いたソファの一つに、亡くなった旦那さまが確かに座っていたように感じました。少々オカルト的な話に聞こえるかもしれませんがw お会いしたことはないけれど、社交的な性格で、会社の歴史を後世に残したいと常々思いながら亡くなった旦那さまに、「じゃあ中島さん、あとは頼むよ」と肩を叩かれたような気が、確かにしたのです。
かくして、そのインタビューは無事、冊子としてまとめることができました。旦那さまが親族会社に貢献したエピソードの数々も、その中に盛り込むことができました。これはインタビュアーならではの仕事です。インタビューの力・効果の1つ目。
もう1つは普段、塞ぎこんでいたH子さんがインタビューを通じて、生き生きとした時間を取り戻してくれたことです。「あのひとが死んだなんて、今でも信じられない」と言っていたH子さんですが、旦那さまの思い出話をすることで、心の中で少しは旦那さまのご供養ができたのではないかと思うのです。
インタビューは話す側(インタビュイー)にもメリットをもたらします。これがインタビューの力・効果の2つ目です。
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